ToTAL科目「プロフェッショナルと価値創造 II第9回:「VUCA時代の挑戦:AI基礎技術で世界を変える」を2021年2月8日に、ZOOMで行いました。

・科目分類:社会課題の認知 /Recognition of Social Issues
・科目名: TAL.S502 プロフェッショナルと価値創造 Ⅱ / Professionals & Value Creation Ⅱ
・プログラム名:VUCA時代の挑戦:AI基礎技術で世界を変える
・ゲストスピーカー: ⽊佐森慶⼀、理学博士、BIRD INITIATIVE 株式会社 Principal 兼)
          NEC データサイエンス研究所 主任研究員 兼)
          産総研 人工知能研究センター プロジェクトマネージャー
・開催日時: 8/Feb (Mon) 18:00-20:00

 

2021年2月8日(月)Zoomにて、日本電気株式会社(NEC)の木佐森慶一さんをお招きし、「VUCA時代の挑戦:AI基礎技術で社会を変える」をテーマに話題提供をしていただき、参加者とコミュニケーションに時間を割いていただきました。木佐森さんは、博士(理学)を物理学で取得後、理研でのポスドクを経て、NECに入社された経歴をお持ちです。NECではこれまでの専攻と異なる機械学習の研究に従事され、産総研と兼務し、そこで後述のAI技術の事業化を進めてこられました。現在では、NEC、産総研、ほか数社のサポートを得て、BIRD INITIATIVE(株)を立ち上げ、このAI技術を用いた事業立ち上げに取り組んでおられます。当日は、現在取り組まれているBIRD INITIATIVE(株)での事業化の取り組みのほか、ポスドク、国研、大企業の研究を経験されてきた木佐森さんのキャリアを通して、VUCAと呼ばれる不安定・不確実な世の中において、研究者としてこれからどのようなことが求められるのかを学生とのディスカッションを交えつつ、ご紹介いただきました。

1. BIRD INITIATIVE(株)での取り組み:

BIRD INITIATIVE(株)において木佐森さんは「シミュレーションと機械学習の融合技術」の技術の事業化を行っています。この技術は、機械学習にシミュレーションを組み合わせることで、十分なデータがない場面でも機械学習を適用できるようにするというものです。実際に日産自動車で実証した例では、この技術を用いたソフトによって生産ラインのシミュレーションの構築の高速化と評価の精緻化を可能にしました。これまではシミュレーションの最適パラメータを得るのに生産ラインの各工程からのデータを集めて生産技術者が決定していたのに対し、このソフトでは生産工程の最後のデータのみを用いてAIが最適なパラメータを推定することができます。これによってこれまで一か月かかっていた作業が一日で完了するようになり、予測誤差についてもAIを用いたときのほうが小さくなったそうです。この演繹的な手法であるシミュレーションと帰納的な手法である機械学習という両極端な手法のいいとこ取りをするという研究は、もともと木佐森さんがNECと産総研との共同技術研究において研究されていたものです。この事業をNEC内部ではなく新しくベンチャーで事業化されていますが、その理由として木佐森さんがおっしゃられていたのが事業展開の速さです。大企業の事業部の一つとしてしまうと意思決定に時間がかかることがネックとなると説明してくださいました。

  

  

  

2. 研究者としてのキャリア:

木佐森さんのこれまでの経歴を振り返りつつ、企業研究者として働くことについてご紹介いただきました。まず企業研究とアカデミアでの研究の違いとして、企業研究は社会に貢献できる、だれもやったことがないような新事業にチャレンジできる反面、研究部門はコストセンター(利益を出すことができない部門)であることから結果を出すことが求められるという厳しさがあります。このため木佐森さんが機械学習という研究の中で前の専門であった物理学を強みにしているように、自分の強みを持つことが重要であると述べていました。また時間をかけて研究に向き合うことのできる大学院での博士課程は研究基礎力をつけるうえで大事とのことでした。博士課程で研究職に就職する際には専攻よりもこの力を見られるそうで、実際AI技術の研究開発をしているBIRD INITIATIVE(株)の木佐森さんのチームでは生物や化学などの様々な専門の方がおられます。最後にNECとプロ契約している経緯から好きなことを突き詰めていけばお金は後からついてくるといったことや、入社2年目でプロジェクトマネージャーを務められた経験から、裁量と責任ある仕事は成長のチャンスであるとの考えを教えていただきました。

3. 感想:

これまでの講演者と比べ比較的我々と年の近い木佐森さんのお話は、企業研究者からのベンチャー立ち上げというスケールの大きいものであった一方で、博士課程の学生がこれからチャレンジしていくのに勇気が出るような内容であったと思います。現在就職するか博士課程に進学するか悩んでいる判断自分にとっても大変参考になりました。

最後にお忙しい中このような機会を提供してくださった木佐森さんに心よりお礼を申し上げます。

(文責:菅野翔一朗 工学院機械系ライフエンジニアリングコース修士1年、ToTAL 3期生)