社会課題の認知 / プロフェッショナルと価値創造 II(第7回):「アントレプレナーシップでイノベーションを加速しよう」が2020年1月31日に行われました。

 

・科目分類: 社会課題の認知 / Recognition of Social Issues

・科目名: TAL.S503 プロフェッショナルと価値創造 II / Professionals & Value Creation II

・プログラム名: アントレプレナーシップでイノベーションを加速しよう/
         Driving Innovation through Entrepreneurship

・ゲストスピーカー / Guest Speakers:
         倉林陽、 マネージング・ディレクター、 DNX Ventures/
         Akira Kurabayashi, Managing Director, DNX Ventures

・開催日時:31/Jan (Fri) 18:00-20:00

2020年1月31日(金)本学大岡山キャンパスにて、DNX Venturesマネージングディレクターの倉林陽さんをお招きし、『起業家精神でイノベーションを加速する』をテーマに話題提供いただきました。ToTAL登録生に加え、オープンプログラム参加生含め12名が参加しました。倉林さんからの話題提供の後は、一橋大学出身のAGL OBで現在アーキタイプベンチャーズにお勤めの加藤智裕さんも加わり、参加者とともに活発なディスカッションをしていただきました。また、倉林さん、加藤さんには、その後、懇親会にもお付き合いいただきました。

  
今回で本学には、6回目のゲスト講演となった倉林さんは、ベンチャーキャピタル(VC)・コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のエコシステムがまだ日本に定着していなかった20年前からVC・CVC事業に携わってきました。昨今ではメディアからの取材要請を受けるほど、日本のVC・CVC界を牽引する方としてご活躍中で、VC・CVCに関連する様々な課題について熱心にご説明をしていただきました。その中でも、特に関心を寄せた事柄を以下にてご紹介させていただきます。

 

1)テクノロジー・ベンチャーが新たな価値を創造する:デジタル時代の到来 

2009年、リーマン・ショックでバブルがはじけた頃の世界時価総額ランキングを振り返ると、トップ10にはマイクロソフト社以外のテクノロジー企業は一社も名を連ねていなかったのに、2020年2月時点では、10社中7社もが、GAFAなどを含む、米・中のテクノロジーを企業価値の根幹となす企業がトップを占めている状況とのこと。今やこのようなテクノロジー系企業の躍進は世界のトップ企業に留まらず、S&P500と言う米国市場の代表的な銘柄500社の加重平均株価で算出している株式指数でも、2019年第1四半期には時価総額の約3分の1をテクノロジー株が占めているとのこと。従来、テクノロジー企業があまり目を向けてこなかった産業でも、至る所で『Disruption』(破壊)が起こり、テクノロジーは最早、世界経済の根幹とも言うべき存在にまで成長を遂げ、デジタル時代の到来を実感しました。

そして、この近年のテクノロジー企業の成長を支えたのがVCによるベンチャー企業への投資だそうだ。驚く事に、1979年〜2013年までに米国で創業された公開会社1330社の調査によると、43%(574社)もがVCからの投資を受けており、この574社がなんと時価総額の57%を占め、さらに研究開発費用の82%を計上していたとの事。 

『データは新しい石油である』と言う発想を紹介していただいた様に、今後の価値創造はデータをもとにした新しいテクノロジーの進化や導入によってもたされるのだろうと思いました。

2)ベンチャー企業の価値評価

企業の価値を表す指数には、色々な考えや計算方法がある中、時価総額(上場株式枚数*株価)や企業価値(通称:EVは時価総額に負債を足し、現金・現金同等物を引いた)の式らは普遍的に使われているそうだ。直近で時価総額1000億ドル以上の企業のうち、2008年のそれに比較して2倍以上の伸びを示している企業は、EBITA( Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization: 税引き前利益+特別損益+支払利息+減価償却費)も2倍以上に成長しており、テクノロジー企業は従来の企業(例えば銀行・小売・製造業など)と比べて増益率の成長が著しい事からこそ、時価総額が躍進している現状が浮かび上がった。

一方、未上場の、いわゆる「ベンチャー企業」は、公開株価を使っての時価総額計算ができないが、倉林さんらベンチャーキャピタリストはどの様に、それら未上場ベンチャー企業の『価値(時価総額)』を見極めているのだろうか?実務では、1つのモデルや指数だけを頼りに評価されていないだろうが、講演で紹介をいただいたモデルの一つに、メンドーザ・ラインと言うのが特に興味深かった。

このモデルは、米国においてベンチャー企業の成長率から将来の価値を推測するもので、投資先の企業がIPO(新規上場)に到達できるかどうか(つまり、VCの投資額を上場によって回収し利益を得ることができるかどうか)を、事業の黒字化の前からでも推測できるものとして紹介をいただいた。

収益は多くなればなるほど成長率が下がる特性を持つ。例として、収益を100円の収益から1000円へと10倍に成長することはできても、100億円を1000億円に成長させるのは至難の技。そこで、過去のデータを分析してまとめたメンドーザ・ラインは年間経常収益が100億円ある企業には年率25%以上の収益成長率がなければ米国でのIPOは難しいと報告した。VC・CVCではメンドーザ・ラインを回帰する事でベンチャーの投資案件としてのポテンシャルを見極める事ができるそうだ。

3)かつてない機会をものにせよ!

これまで日本においてイノベーションを支えるVC・CVCエコシステムの構築は海外勢、とりわけ米国に遅れを取ってきた傾向がある。確かに、投資規模などの絶対値だけを見る限りでは、日本はまだまだ米国を追うかたちになるが、倉林さんによると、近年において日本も、日本ならではの強みを発揮しているようだ。野球に例えた話で、日本のベンチャーファンドは、投資先のベンチャー企業に企業価値を100倍に上げるような『ホームラン』を打ってもらう事は少ないが、数倍〜数十倍に上げるような『ヒット』を外国勢より多く打つ事で成功を納めているそうだ。

そして、今後、日本のVC・CVCエコシステムの勢いを表すキーワードは、主に以下の3つ存在すると紹介していただいた。 

1)人材(Talent):若くて優秀な人材が起業を選ぶようになった

2)技術(Cloud):スタートアップが起業しやすい環境が整った

3)資金(Money):独立系VCや外資CVCの参入により金額、および投資家の質が向上 

近年、これらの要素が備わったことにより、VC・CVCの価値創造プロセスは好循環しており、日本のVC・CVCエコシステムもこれから勢いを増していくと見ているそうだ。これからベンチャー企業やVC・CVC界に携わりたいと思っている人、特に我々のような学生には、かつてないチャンスが迎えていることを提唱していただいた。まさに、起業を考えている人、あるいは起業をする気が無くても、起業に興味を持っている人には、ものすごい夢を持たせてくれる熱いスピーチをしていただいた。

 

だが、いくら日本のVC・CVCエコシステムが構築されても、起業をする事は容易なことではない。色々な成功要素がある中、倉林さんによると一つの大きな成功要素は、創業者や創業チームの『やりきる力』だそうだ。だからこそ、学生の間からいろんな課外活動やプロジェクト等に果敢に挑戦し、『やりきる力』をつけていくことの大切さを肌で感じました。

来年も同じくご講演されるかどうかは分かりませんが、もしもそうなら、次回のチャンスを見逃さないように、皆に声をかけたい次第です。

お忙しい中、貴重な機会を提供してくださった倉林さんには、心よりお礼を申し上げます。

(文責:春山マシュー、OPENプログラム参加生)