ToTAL科目対象のワークショップ「手と脳で思考するプロダクトデザイン」を2025年7月27日に行った。
| ファシリテーター | 磯村 歩(株式会社フクフクプラス 共同代表、一般社団法人シブヤフォント 共同代表) |
| 開催日時 | 2025年7月27日(日) 13:00–18:00 |
| 開催場所 | 大岡山キャンパス南4号館2階S4-202 |
概要
デザイナーはエンジニアと思考の傾向が大きく異なる。エンジニアは論理思考をもとに、「確実性」や「安全性」を重視しているのに対して、デザイナーは直感思考をもとに「時代に合う」かどうかや「想定外」を重視している。デザイン思考とは、上記で述べた「デザイナー」のように思考することであり、本ワークショップでは、体を使って考え、まず行動に移すという回路を目覚めさせること、つまり頭で考えるのではなく、手で考えることを体感してもらうことを目的とした。その上で「プロダクト」をデザインする経験を参加者に提供した。
アクティビティ1:オブザベーション(アート鑑賞)
2人1組で行い、1人はイラストが描かれたプロジェクターが見える方向、もう1人は見えない方向を向き、片方の人が見えているものを、相手に言葉で伝え、描く側はA4の紙と鉛筆、消しゴムのみを使い、そのイラストを表現した。10分経過したら役割を交代して同様のワークを行った。人によって特徴の伝え方に違いがあることや、表現に対する認識のずれなどが多くあり、完成イラストを描けた人はほとんどいなかった。このことから、何かを観察し、認識し、相手にわかるように正確に伝える一連のプロセスは、かなり困難であることが分かり、興味深かった。


アクティビティ2:オブザベーション(行動観察)
アート鑑賞の2人1組で行い、15分ずつで交代し、タスクを実施した。仮想クライアントとして「ニチバン、絆創膏」を扱った。タスク設定として、「頻繁に使うシーン」と「最も困難な使用シーン」の2種類の場合で考えた。頻繁に使うシーンでは「①机がない、②椅子に座った状態、③人差し指の真ん中に指定された絆創膏を巻くこと」、最も困難な使用シーンでは「①立っている状態、②左手のみ使える状態、③右手の肘に指定された絆創膏を貼ること」が条件として設定された。最も困難な使用シーンは、不便さの課題をより多く見出すために実施した。いずれも行う側は目を閉じて行い、その様子をもう一人が観察して、気づいたことをメモした。お互いが終わったらメモの内容を共有し、まとめた。


アクティビティ3:サイレントブレインストーミング
まず準備として、5人1グループを組み、気づきのシェアリングを行った。このワークでは具体的なアイデア(箱の提案など)を考えるため、その視点に基づき、気づきを聞いた。そして、各自が6分で3案のアイデアを考え、説明付きで絵を描き、次の人に渡した。これを5回繰り返し、合計で30分ブレインストーミングを行った。サイレントブレインストーミングの様子を観察したところ、普段のブレインストーミングでは出てこないような斬新なアイデアが多く、この手法は非常に有益なものであると感じた。普段から周りの目を気にして発言を躊躇する人でも自由に発信できる点が特に優れていると考えた。


アクティビティ4:マテリアルラピッドプロトタイピング
続いて、100円ショップで購入した様々な素材を実際に手に取りながら色々組み合わせることで、新しい機能を見出し、1つのプロダクトをデザインするワークを行った。この際、電動で作動する、はアイデアから除外し、デモンストレーションできるようにすることまでを目標とした。最終的に各自が考案したプロダクトについて全員の前でデモンストレーションを交えたプレゼン発表を行った。


感想
今回のワークショップを通じて、「頭で考えるのではなく、手を動かしながら考える」というデザイン思考の感覚を強く体感した。特にオブザベーションの活動では、自分が見たものを正確に相手に伝えることの難しさや、言葉の解釈や認識のずれによって全く異なる結果になる面白さを実感した。また、絆創膏の使用シーンを体験する中で、日常生活の中に潜む「不便さ」や「工夫の余地」が多く存在することに気づき、観察を通じて課題を見つける力の大切さを学んだ。さらに、サイレントブレインストーミングやマテリアルプロトタイピングでは、自由な発想や手を動かすことが新しいアイデアを生み出す源泉になることを体感し、普段の研究活動などにも応用できると感じた。
追記
私は今回、オブザーバーとして参加したが、参加者が次々と斬新なアイデアを生み出す様子からデザイン思考の効果を目の当たりにした。特に、素材を組み合わせて新しいプロダクトを提案する過程では、論理的に考えるだけでは出てこない発想が数多くあり、今後、自分の研究においても、まず手を動かして試す姿勢を取り入れることで、より斬新なアイデア発想につなげたいと思った。考えるだけではなく、手を動かしながら発想することに興味がある人やデザインに興味がある人に本ワークショップを強くお勧めします!
報告者
生命理工学院生命理工学系D1、ToTAL第6期生 村尾侑大

