概要

科目分類社会課題の認知/Recognition of Social Issues
科目名プロフェッショナルと価値創造A/C/Professionals and Value Creation A/C
ゲストスピーカー京谷実穂氏 株式会社Voicy VUI/VUXデザイナー
開催日時2023年7月24日(月)18:30-20:30
開催方法大岡山キャンパス南4号館S421およびオンライン

7月24日(月)18:30-20:30に、プロフェッショナルと価値創造A/C第7回が開催され、ゲストスピーカーに株式会社Voicyより京谷さんをお迎えした。

ゲストスピーカー 京谷実穂氏

株式会社Voicy VUI/VUXデザイナー
京谷実穂氏

https://recruit.voicy.jp/member/kyoya

京谷さんは、大学でデザインを学ばれた後、富士通デザイン株式会社に入社され、携帯電話・スマートフォンの開発に携われてきた。2013年にNTTドコモマーケティング部に出向され、d系サービスのUXデザインに関わられてきた。2018年より株式会社Voicyに転職され、立ち上げからUX/UIデザインに関わられてきた。Voicyは、スマートフォンによる音声発信・聴取を楽しめる音声プラットフォームであり、2023年7月24日現在、発信者は審査を通過したのみに限られている。講義では、京谷さんのご経歴を振り返ったのちUXデザインの可能性、考え方などについてお話しいただいた。

講義の様子

「UXデザインとは、デザインの限った話ではなく、UXデザインの原理・原則は様々な事業や研究に活かせる」と京谷さんは語っていた。UXとはUser Experienceであり、UXデザインは、製品・サービスを通したユーザーの反応、感情や行動を設計する必要があり、ユーザーの正しい理解が必要である。一見奇妙ではあるが、人間は本当のニーズの認識できていない場合がある。有名な話が、クレイトン・M・クリステンセン/タディ・ホール/カレン・ディロン/デイビッド・S・ダンカン著(依田光江 翻訳)(2017)『ジョブ理論―イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ・ ジャパン に書かれている「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルでは『穴』である」という例である。家族や親しい友人であれば、本当のニーズに気がつくことも可能であるが、見知らぬ誰かを理解するためには、フレームワークを用いることが有効である。フレームワークの一つは次のように進む。

  1. リサーチ/ユーザーペルソナ作成:誰に対してどのような価値を提供するのか定めるために行う。インタビューや観察等を通して行う。注意するべき点は、仮説だけに終わりにしないことである。
  2. ユーザーストーリーの作成:ユーザーがサービス・製品とどのように関わるのか、カスタマージャーニーなどを作成する。
  3. プロトタイピングとテスト:ユーザーのニーズを抑えた上でサービスのプロトタイプを作成し、製品をテストし、改善していく。

UXデザインが話題に上がったのは2007年以降であり、それはiPhoneの登場が関係する。iPhoneにより、いつでも手元であらゆるサービスにアクセスことが可能になり、ユーザーとの関わりが増えた。また、iPhoneは説明書が不要なほど使いやすいなど、商品を使う前後の体験がデザインされていることも大きく変化を起こした点である。
京谷さん自身、これまで組織づくり、ビジネス開発、VUIデザインにおいてUXデザインの思考が役に立ったと言う。具体例として、組織づくりを取り上げると、Voicyに立ち上げ期からジョインされ、採用プロセスを考える上で役に立ったそうだ。フレームワークに則り、

  1. どんな人が会社に入れば良いのか(組織、所属する人に対する価値の設定)
  2. 入ってから仕事ができるようになるまでのストーリー(体制、制度の新入社員に対する影響の考慮)
  3. 1 on 1で定期的にヒアリングをしながら調整する(テストと改善)

で進めたそうだ。これからの時代、作って提供すれば良い時代からユーザーが欲するものを適切に提供しないと売れない、という。そのため、プロダクトデザインに限らず、UXデザインの原理・原則は事業、研究にも活かせるので活用していくのが良いとお話しいただいた。

質疑応答の時間では、私たちの研究と他者への価値提供についての話が盛り上がったため、そのやりとりの一部を紹介する。


■参加者:「UXデザインは、他者への価値を提供する。科学/理学を専攻している私は、その意義を聞かれ夢を与えることと話すが、本当に他者へ価値提供しているのかわからなくなる。科学を探求するのは本当に他者に価値を提供する必要があるのか」
■京谷さん:「本日お話ししたサービス、プロダクトは比較的短いスパンでの価値提供なのかな。科学の提供するものとして、1年や2年で届くものではないのでわかりにくいのではないかな。昔の人に欲しいものを聞いたときに『速い馬車』と回答が来たとして、彼らの本当のニーズは速く移動したり、速くものを運んだりあり、決して当時存在しない飛行機や自動車を回答しない。ライト兄弟がものを運送したりするためを思っていないけど、案外夢がしばらくして価値提供するケースはあるのではないかな。」
■山田先生:「京谷さんのおっしゃった通り、時間軸の短いものは理解されやすい。価値はその時点で説明しづらいが、支援のもとに成り立っている以上は、『わかりません』、『説明できません』で終わってしまってはダメ。時間軸など踏まえた上で、なんとか価値を伝える意義を伝える必要があると思う。その点、本人が面白いと思っているのは価値につながっていくのではないかと思う。」

【後記】
UXの話から、科学の意義、責任について見つめ直すことになり面白かった。飛行機の例やタッチパネル操作の原理などの例のように、思いがけず価値提供するケースに関連して、宇宙飛行士の野口聡一さんの三次元アリの話を思い浮かべた。一次元方向にしか歩けないアリは、目の前を塞がれたときに途方に暮れるが移動できる次元が上がるにつれ、可能性が広がる論理のもと宇宙へ行く意味を説明する話である。確かに、新たな視点を獲得する(受け入れられる)ためには時間を要するが、その後多方面で貢献することもあると感じた。しかし、その前に、自分自身やっている意義をはっきりさせた方が進める方向性を見失いにくいと考えるため、またサポートの上に研究が成り立っているため説明責任は背負っていく必要があることを認識した。

(文責:小山歩 生命理工学コースM1、ToTAL 6期生)