• 科目分類:社会課題の認知/Recognition of Social Issues
  • 科目名:TAL.W.501 プロフェッショナルと価値創造/Professionals & Value Creation
  • プログラム名:自動運転技術の最前線/ H Leading edge of Autonomous Technology Development
  • ゲストスピーカー/Guest Speaker:坂本秀行、日産自動車(株)取締役・副社長/ Hideyuki Sakamoto, Corporate Senior Vice President, Nissan Motor
  • 開催日時:8/Mar(Fri) 18:00-20:00

2019年3月8日(金)、本学すずかけ台キャンパスにて、OB(1980年 機械物理 卒)でもある日産自動車(株)の取締役副社長 坂本秀行さんをお招きし、自動車に関する技術開発を中心に話題提供頂くと共に、参加学生と質疑応答・ディスカッションの時間を共有いただきました。ToTALおよびAGL生に加え、OPEN学生も含め21名が参加しました(4名は大岡山から遠隔で参加)。

1. 自動車会社の役割

まず、坂本さんから、日本における自動車会社の位置づけの説明がありました。自動車産業は、関連する産業も広く、その市場拡大の歴史からも、日本経済の一端を大きく背負っていると言えます。技術面においても世界的に競争が激しい産業であります。ここで、テーマとして出てきたキーワードが「協調領域」と「競争領域」というものです。交通事故の防止や環境対策といった当たり前にできないといけない領域と、自動車のデザインや性能など、競争していく領域があります。これまでの日本企業は「協調領域」にあまり関心がなかったようですが、現在は、「協調領域」を広げていこうとする取り組みが多く行われているとのこと。その例としては全固体電池や自動運転の領域があげられます。更に強調してお話して下さったことが、自動車業界には時間差があるということです。5年後、10年後のために自動車業界は常に投資をしています。一方、短期的な利益を重視しがちな傾向もあり、周りから、その時間差の概念を理解されにくい一面もあるということを知りました。

19030801.png

2. 最近の自動車の革新技術

自動車を取り巻く課題として次の4つを挙げられました。

① エネルギー

② 地球温暖化、

③ 交通渋滞

④ 交通事故

① と②に関連する内容として、下記3点が挙げられました。

(1) 自動運転は、安全性を保ちながら走行性能の魅力を引き出していけるかがテーマとなっている。

(2) バッテリーは、材料や金属組成の検討、結晶構造の工夫などの研究を行っている。バッテリーの信頼性のために、雨や雷、ガーター、クラッシュ、落下試験などをしているそうですが、バッテリーが高電圧装置であるため、今までは車内の人だけを守っていましたが、これからは同時に高電系バッテリーも守らないといけないそうです。衝突の衝撃を吸収しながら人を守る。しかしこれは、電気メーカー会社にはできず、自動車会社にしか実現できない技術だそうです。また、日産自動車のEVに搭載しているセル約74百万個以上( 386,000台 × 1台のセル 192個)についてはバッテリー重大不具合0個という実績だそうです。これなら、私達も安心して日産自動車製の車に乗れますね。

(3) パワートレインの動向、EV比率が増加する設計を工夫するために、振動を抑制して加速レスポンスを向上や、発熱しないチップの開発などを試みているそうです。

3. 自動運転について

前述の③④の解決に寄与するものとして自動運転技術がある、という認識だとのこと。自動運転を考える前に、安全な自動車のミスについて見ていきたいと思います。驚くべきことに、ドライバーのケアレスミスが事故原因の93%を占めているとのこと。自動運転の4つの領域として①センシング②認識③判断④操作がありますが、これらを機械に置き換えることで、人間のケアレスミスを大幅に減らすことが期待されます。長距離運転や、高速道路、渋滞などがドライバーを疲れさせる影響が多く自動運転が効果を発揮するとのこと。先ほど挙げた「協調領域」の一つに、日本全国の道路のデータ整備が挙げられます。

ところで、国が掲げた「協調領域」は13個あって、その例として、前述した自動運転、バッテリーや道路のデータもありますが、クラウド、IT、行政、保険会社、設備メーカー、教育などがあるそうです。

219030802.jpg

4. 「協調領域」と「競争領域」

今は、各社が独自に自動車を製造していれば良かった時代ではなく、全社が協力して「協調領域」で補っている領域があることを新しく知りました。1社で独占するよりも、社会共通の課題であるなら「協調領域」を作って取り組むほうが、より効率的かつ効果的と思われます。関係者でコストを分担し、各社の優秀なエンジニア達で協力して日本の技術を発展させる。もちろん、「競争領域」は、機能性とデザイン性の両立や、バッテリーの小型化、危険回避能力など、存在しており、それが各社の特徴となります。本講義を通して、「協調領域」と「競争領域」を通して自動車産業にイノベーションが展開していると思いました。

5. 最後に

 坂本福社長には、他にも開発中の技術など、たくさんのお話をしていただきました。また学生達の質疑応答に対しても丁寧に答えてくださいました。

 更に、講義の終了後には講義に参加した学生達と遅くまで会食に時間を割いてくださいました。

この場をお借りし、お忙しい中このような機会を提供してくださった坂本副社長に心よりお礼申し上げます。

文責:篠田 泰成 (物質理工学院 応用化学系 原子核工学コース 修士課程1年 ToTAL 1期生)