概要
科目分類 | 社会課題の認知/Recognition of Social Issues |
科目名 | プロフェッショナルと価値創造A/C/Professionals and Value Creation A/C |
ゲストスピーカー | 笹原優子 株式会社NTTドコモ、寳野太貴 株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ |
開催日時 | 2023年12月21日(月)18:00-20:00 |
開催方法 | 大岡山キャンパス南4号館S421 および オンライン(Zoom) |
本記事では、2023年12月21日に開催されたToTAL科目「プロフェッショナルと価値創造 A/C」第3回の講義について報告します。
ゲストスピーカー
Figure 1: 笹原優子氏
(株式会社NTTドコモ)
Figure 2: 寳野太貴氏
(株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ)
先日、プロフェッショナルと価値創造B/D第3回が開催され、ゲストスピーカーに株式会社ドコモより笹原さん、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズより寳野さんをお迎えし「大企業からの新規事業創出の挑戦」というテーマでご講演いただいた。
先日、プロフェッショナルと価値創造B/D第3回が開催され、ゲストスピーカーに株式会社ドコモより笹原さん、株式会社NTTドコモ・ベンチャーズより寳野さんをお迎えし「大企業からの新規事業創出の挑戦」というテーマでご講演いただいた。
笹原さんは、新卒でNTTドコモに入社されてから現在までにiモードサービスや端末の企画、サービス仕様策定に関わられてきた。1年のMBA留学を経て、社内起業家を支援する新規事業創出の運営、CVCであるNTTドコモ・ベンチャーズで代表を務められてきた。現在は本社にて、一般消費者向け事業に携わられている。
寳野さんは、2015年に本学MOTを卒業され、新卒で本社にてマーケティングに関わるお仕事をされてきた。現在はNTTドコモ・ベンチャーズでベンチャー企業の発掘・共創支援をされている。講演では、NTTドコモについて/笹原さんのいらっしゃったライフイノベーション部について/新規事業創出の取り組みについて、お話しいただいた。
講義の様子
Figure 3: 講義の様子
NTTドコモは、「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」をミッションに掲げ、これまで事業を展開されてきた。例えば、iモード(*1) によって、生活者には電車内でメールをすることが広がった。また、「絵文字」の導入により絵文字に惹かれてドコモに契約する人が増えた。今ではニューヨーク近代美術館に絵文字がコレクションとして所蔵されるなど文化創造も実現してきた。ここで言う、「コミュニケーション」とは、人と人に限らず何かと何かが情報伝達をすることを指している。通信は、コミュニケーションを実現する手段であり、現在は5Gの高速・大容量、多数接続、低遅延を活かして幅広い事業を展開している。高速・大容量の通信が可能になることでVRや鮮明な映像等をストレスフリーに提供することが可能になりエンタメの可能性が広がっている。また、多数接続の実現によってIoT化を加速させ、便利な世の中を作り出されている。低遅延によって遠隔医療や自動運転といった高いリアルタイム性が求められる現場での利用といった活用できる領域が拡大している。
新規事業創出には、いくつかのアプローチが存在する。ある社の持つ事業部門からの創出、社内起業家が始める場合、研究開発部門の先行技術から生まれる場合、CVC(*2)がベンチャーコミュニティとの間に立ってオープンイノベーション(*3)を促進することで創出する場合、などがあるようだ。
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*1: 1999年に開始したインターネットメールの送受信。ウェブサイトの閲覧などが可能なパケット通信を利用した世界初の携帯電話インターネット接続サービス
*2: 事業会社における、自己資本をもとに大きな資金を集め新興企業への出資・支援を行う活動組織
*3: 製品開発・技術改革・組織改革などにおいて、自社以外の組織、機関の持つ知識や技術を取り込んで自前主義から脱却した手法
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事業部から生まれることに関しては、通信事業・スマートライフ事業・法人事業の三つに大別される事業同士、事業にある部門同士がシナジーを生み、価値・サービスが生まれる。
社内起業家による新規事業創出においては、リーンスタートアップというプロセスを採っている。従来はウォーターフォールと呼ばれる形式で、全体の企画からいくつかの段階を経ていた。しかし、新規事業を創出するまでに一年半ほど要してしまい、生活者のトレンドの移り変わりに対応しきれない点、コストを多く要する点からリーンスタートアップへとシフトした。小さくプロダクトを作り、ユーザーテスト、検証を小刻みに行うことでリスクを減らすため、変化の早い現在に最適なプロセスだという。このプログラムは「39works」と呼ばれ、2014年7月の発足から2023年3月までに1,000以上の企画が出され、3件が子会社として設立された。巷では 「千三つ」と1,000件の新規事業応募に対し、黒字化まで行くのは3件程度と言われており、それに近い数字を社内で実現している。
「39works」などのプログラムを振り返り、より社内起業家に寄り添い、チャレンジできるプログラムとして始まったのが「docomo STARTUP」である。このプログラムでは、誰でも挑戦できるようにシンプル化・体型化していること、マイノリティ出資により社外からの資金調達も行うことで社外の人と共にグロースすること、ローリスク・ハイリターンで社長になる挑戦を支えること、が着目すべき点である。ドコモからの出資比率を下げ、外部資本の調達を担保することで柔軟に経営を進めることを可能にしている。また、出向か辞職しカムバックすることを選択できるため、雇用の心配せずに起業にチャレンジすることができる点が魅力である。起業からの期間を一年半に設定しているため、早く・安く検証することになり、限られた予算で多くの事業案を検証し、事業性の高い案に注力する。プログラムの応募にあたっては、イノベーターの講演によるマインドセット・スキルのレクチャー、事業アイデアのブラッシュアップワークショップ等のサポートがある。若手に限らず、60歳以上の方が挑戦された実績があるため、誰でも挑戦する、という目的を満たしている。
最後にご紹介いただいたのは、オープンイノベーションの共創推進によるアプローチである。オープンイノベーションでは、開かれた関係で進めるため新たなものが生まれることが期待されている。NTTドコモ・ベンチャーズはNTTやNTTドコモから出資を受けたCVCファンドで、未上場企業に投資を行い、この企業がEXIT(株式公開/M&A)した際に資金の回収を行う。また、投資先はNTTやNTTドコモとのシナジーを生むこと想定して選んでいるという。東京、シリコンバレーを拠点にしながら欧州、イスラエルを含めて先進的な技術をグローバルで探索している。投資を行うだけではなく、共創のサポートも行うことでオープンイノベーション活動を支えており、具体的にはピッチイベントの開催により接点を創出、NTT事業部門との引き合わせ等を行なっている。
【後記】
今回のご講演を受けて、大企業ならではの強み、難しさについて改めて考えさせられた。企業として持続的に成長していくため、生活者へのサービスの質、地球への負荷を改善していくためにもイノベーション、新規事業は求められる。多くの場合、大企業はある時の生活者の需要を満たした革新的なサービスによって成り立ったと思う。現在では、多様な価値観が表立って見えるようになったり、グローバル規模でのつながりが増えるようになったりしたため変化が激しく、需要に常に応えていくのは容易ではない。そのときに、既存の主要サービスを持ちつつ、どのように新たなサービスを展開していくのか難しいと想像した。主要サービスだからこそ、世界見渡したときに強みであるはずだが、こだわりすぎると時代の変化に取り残されかねないと感じる。シナジーを生むことで新たな事業を展開するためにどのように部門をわけ、どの時期に改編するのか興味を抱いた。社の掲げるパーパスについても同様だ。特にサラリーマン社長で継続している場合、創業者の企業理念を大切にしつつ、パーパスをどのように時代に合わせていくのか難しいと感じた。他方で、大企業は安定した資金、培ってきた技術、人材、ネームバリューが整っているからこそ、チャレンジする土壌を醸成することができると思う。挑戦する土壌を作る上で、資金的な余裕、出戻りも認める働き方の自由さなどを与えることが重要だが、それらは短期間で簡単に作り出せないと感じた。
(文責:小山歩 生命理工学コースM1、ToTAL 6期生)