ToTAL科目「リーダーシップ・グループワーク基礎」対象のワークショップ「イノベーションを生み出す脳に脱皮する」を2026年1月12日に行った。
| ファシリテーター | 福島治、磯村歩 |
| 開催日時 | 2026年1月12日(月) 13:00–18:00 |
| 開催場所 | S4-202, 南4号館2階, 大岡山キャンパス |
概要
本授業では、「イノベーションを生み出すための思考の転換」、すなわち既存の固定観念や前提条件から脱却する「脱皮」という概念について学んだ。私たちは日常生活や研究活動において、無意識のうちに過去の経験などに基づき、思考している。その結果、効率的に判断を下すことができる一方で、新しい視点や発想が制限されることがある。本ワークショップでは、このような思考パターンから脱却し、多様な解釈の可能性に気づくことを目的として、「観察」「視点の切り替え」「対話」を中心としたワークが行われた。
アクティビティ1:チェックイン・自己紹介
参加者同士で名前・専門分野・本授業で学びたいことを共有した。異なる専門分野の参加者が集まっており、それぞれの関心を知ることができた。
アクティビティ2:イノベーションに関する講義
講義では、イノベーションとは単なる新規性ではなく、「既存の要素の新しい組み合わせ」や「視点の転換」によって生まれるものであると説明された。また、人は無意識のうちに「当たり前」や「常識」に基づいて思考しており、それが新しい発想の障壁となることが強調された。そしてそのためには、「前提を疑う」「視点をずらす」「異なる考えを組み合わせる」といった思考法が重要であり、本ワークショップ全体がその実践の場であることが示された。
アクティビティ3:脳の視点を切り替える観察と発見
キャンパス内に出てフィールドワークを行い、普段見慣れている環境を「異なる視点」で観察した。本ワークでは、制限時間30分の中で学内を探索し、「できるだけユニークなシミュラクラ現象」を10個発見し、スマートフォンで撮影するという課題が与えられた。シミュラクラ現象とは、本来は意味を持たない形や模様が、人の顔に見える現象である。観察を行う中で、建物の窓や配管、壁の模様などが顔のように見える瞬間があり、普段は見過ごしている風景の中にも多くのシミュラクラ現象が存在していることに気づいた。
このワークを通じて、普段とは異なる視点で物を見ると、同じ対象でも全く異なる捉え方が可能になることを理解した。フィールドワーク後には、各自が発見したシミュラクラ現象について発表を行った。同じような場所を歩いていても、発見する対象や着眼点が人によって大きく異なることが印象的であり、多様な視点を共有することで、自分一人では気づけなかった新たな見方を得ることができた。
アクティビティ4:事例研究-福祉分野のイノベーション
福祉分野におけるイノベーション事例として、「シブヤフォント」や「ご当地フォント」など、障がいのある人々のアートを活用したビジネスの取り組みが紹介された。これらのプロジェクトでは、障がいのある人々が制作した文字やイラストをフォントやデザイン素材として活用し、企業や自治体と連携しながら商品や広告に展開している。この事例で特に重要であると感じたのは、「福祉=支援」という従来の枠組みを超え、「福祉×ビジネス」という新しい価値創出の形が実現されている点である。一般的に福祉活動は社会的に意義がある一方で、収益性が低く、継続が難しいという課題を抱えている。しかし、これらの取り組みでは、アートという創造性を媒介として経済的価値を生み出すことで、活動を持続可能なものにしている。また、障がいのある人々を「支援される存在」としてではなく、「価値を生み出す主体」として捉え直している点も印象的であった。この事例から、イノベーションとは単に新しい技術を生み出すことではなく、「既存の枠組みを問い直し、視点を変えること」で生まれるものであると理解した。
アクティビティ5:対話型アート鑑賞
アートを用いて、対話型の鑑賞を行った。本ワークの目的は、美術的な知識を身につけることではなく、アートを通じて「観察力」「視点の切り替え」「発想力」「コミュニケーション力」を鍛え、イノベーションにつながる思考を体験することであった。作品に対する「正解」は存在せず、「どのように見るか」「どう解釈するか」に重点が置かれている点が特徴的であった。以下、各トレーニングの内容について詳細に述べていく。
・[トレーニング1:音のイメージ化]
4つのアート画像を観察し、「どんな音が聞こえるか」「その音は何をイメージしているのか」を各自で考え、その後クラス内で共有した。同じ作品であっても、全く異なる音のイメージが生まれ、人によって捉え方が大きく異なることを実感した。このワークでは、観察から、視点の切り替え・発想力につなげる点が重要であった。
・[トレーニング2:作品の人物のセリフを考える]
1枚の絵を見て、その中に登場する人物のセリフを考えるワークを行った。単に見たままを説明するのではなく、「この人物は何を考えているのか」「どのような状況にいるのか」を想像しながら言葉を生み出した。このワークでは、観察をもとに物語を構築する力が求められ、同じ絵でも全く異なるストーリーが生まれることが印象的であった。このワークでは、観察から、創造的思考力・物語性につなげる点が重要であった。
・[トレーニング3:言葉だけでアートを伝える]
2人1組になり、1人がアート作品を見て、もう1人は作品に背を向けた状態で、言葉だけで内容を伝えるワークを行った(制限時間7分)。この段階では質問やジェスチャーは禁止されており、一方通行のコミュニケーションを体験した。その後、役割を交代し、今度は途中から質問しても良い形式で実施した。その結果、質問なしの状況では情報のズレや誤解が生じやすい一方で、質問を行った場合は相互理解が深まり、認識のズレが大きく改善されることを実感した。このワークから、イノベーションには単なる発想力だけでなく、他者と認識をすり合わせるコミュニケーション能力が不可欠であることを学んだ。
・[トレーニング4:最高にハッピーな物語を考える]
与えられた絵の「直後に起こる出来事」をテーマに、まず「最高にハッピーな物語」を1人5案考え、その後「最悪な物語」を1人5案考えた。さらに2人1組でアイデアを共有し、チームで最も良いアイデアを選び、最終的にグループとして1つの物語を作成・発表した。このワークでは、「最悪な状況」を考えることで思考が大きく広がり、その後に「最高」を考えることでより独創的なアイデアが生まれることを実感した。つまり、人間は最悪な場合を考える方が、思考は大きくジャンプできるという特徴があることを学んだ。
これらのトレーニングを通じて、アートの解釈には正解がないからこそ、自分の前提や思い込みを疑い、新しい視点を探すことにつながったと感じた。このプロセスこそが、「思考の枠を外す=脱皮」であり、イノベーションの本質であると感じた。また、他者との対話を通じて、多様な視点を取り入れることで、自分一人では到達できない発想にたどり着けることを実感した。これらのイノベーションを意識したトレーニングでは、データや観察(左脳)と、遠くへジャンプする力(右脳)の両方が必要であることを学んだ。






感想
本授業を通じて、自分がいかに固定観念に縛られて物事を見ているかを強く実感した。特に印象的だったのは、フィールドワークにおけるシミュラクラ現象の発見や、対話型アート鑑賞を通じて、普段は何気なく観察していたものに対しても、多様な解釈が見出せることに気づいた点である。例えば、同じ対象を見ていても、人によって見え方が大きく異なることを実感し、自分の認識があくまで一つの解釈に過ぎないことを理解した。また、対話型アート鑑賞の各トレーニングを通じて、観察と発想の両方がイノベーションには不可欠であることを学んだ。特に、「最悪な状況を考えることで思考がジャンプする」という体験は印象的であり、従来の枠組みを大きく超えるためには、思考を意図的に最悪なケースを想定することの重要性を実感した。さらに、他者との対話を通じて、自分一人では到達できない考えに触れることができ、思考の幅が大きく広がったと感じた。
以上から、イノベーションは「前提を疑うこと」「視点をずらすこと」「他者の視点を取り入れること」といったプロセスによって生み出されるものであると理解した。今後は、自身の研究活動においても、実験結果やデータを単に解釈するだけでなく、「別の解釈は可能か」と考える姿勢を大事にしようと考えた。
追記
私は今回、オブザーバー兼参加者として本ワークショップに参加したが、各アクティビティを通じて参加者の思考が段階的に変化していく様子が非常に印象的であった。特に、フィールドワークやアート鑑賞の初期段階では「正解を探そうとする」あまり、発言の躊躇が見られたが、対話やワークを重ねるにつれて次第に発言が活発になり、「自分なりの解釈を自由に表現する」姿勢へと変化していった。固定観念にとらわれず新しい発想を生み出したい人、観察力や思考の柔軟性を高めたい人に、本ワークショップを強くお勧めする。
報告者
生命理工学院生命理工学系D2、ToTAL第6期生 村尾侑大

