ToTALプログラムレポート/ToTAL Program Reports

社会課題の認知/プロフェッショナルと価値創造:「航空機ビジネスのゲームチェンジへの挑戦」、を開催しました。/Lecture & Discussion of “Headed towards aviation industry revolution” in a category of “Recognition of Social Issue/ Professionals and Value Creation” was held on 8/Feb.

  • 科目分類:社会課題の認知/Recognition of Social Issues
  • 科目名:TAL.W.501 プロフェッショナルと価値創造/Professionals & Value Creation
  • プログラム名:航空機ビジネスのゲームチェンジへの挑戦/ Headed towards aviation industry revolution
  • ゲストスピーカー/Guest Speaker:高橋拓磨 経済産業省製造産業局 航空機武器宇宙産業課/Mr. Takuma Takahashi, METI Aerospace and Defense Industry Division
  • 開催日時:8/Feb(Fri) 18:00-20:00

2019年2月8日(金)、経済産業省(Ministry of Economy Trade and Industry, METI)の高橋拓磨さんをお招きし、「航空機産業ゲームチェンジへの挑戦」というテーマで話題提供頂き、参加者と質疑応答・ディスカッションを行いました。本プログラムは、OPEN制を採っており、本コースの履修生であるToTAL生10名の他にOPEN参加学生4名の計14名が参加しました。また、すずかけ台からのリモート参加もありました。

METIは様々な分野で多岐にわたる行政を行っていますが、今回は高橋さんが現在推進している”空飛ぶクルマ”事業についての話題提供が中心となり、航空機産業全体の状況についても説明いただきました。

1. 成長分野としての航空機産業:

人を運ぶ航空機市場は、航空機の需要だけでも今後15年で約2倍になると予想されている成長市場です。

そのような大きな成長が見込める市場ではありますが、(1)特に大型機ではBoeing/Airbusの2社の独占市場(部品・部材メーカーにとっては顧客が限定される)である、(2)巨大な開発費を要する、そして、(3)認証始め各国の規制に縛られる、等の特殊性があり、成長市場にも関わらず、また、日本企業が活躍できる土壌があるにも関わらず、民間企業だけでは対応が厳しい分野でもあるとのことです。

人に移動手段としての「航空機」は、乗車人数によって大きく3つに分類されます。具体的には①1-5名、②100名未満,③100名以上 の3つで、それぞれの区分で参入する企業にも違いがあります。前述のように、②③の分野では、既存の大企業が主役となりますが、乗車人数の少ない①では、既存の大企業とともに、ドローン産業やベンチャー企業含め、他業種の参入も可能な、比較的参入にハードルが低い分野です。既に、世界で60以上のプロジェクトが進行し、主要な要素技術を保有している日本企業にとっても大きなチャンスがあるとして、高橋さんが推進している分野です。

2. 空飛ぶクルマについて:

まず空飛ぶクルマとは電動であること、自動であること、垂直離着陸であるという3条件を満たすもののことを指します。これはこれまでの飛行機やヘリコプターといった航空機との大きな違いであり、二酸化炭素を排出しない・低コスト・滑走路不要といった利点が存在します。また、低ノイズであることから、これまで運行することのできなかった夜間などの時間帯での飛行も見込まれています。また、地上移動に比較しより高速な移動が可能となることや、交通手段の選択肢が乏しい地域の移動手段、よりパーソナルな移動手段としても期待があります。コスト的にも、量産できるようになれば現在のタクシーと大差ない料金で運用することが可能になるそうです。

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3. 空飛ぶクルマの必要性:

中でも人口が集中しているがゆえに、渋滞問題が深刻となっているドバイやシンガポールでは、政府が力を入れています。日本でもやや遅れ気味ながら段階的に空飛ぶクルマの導入を計画しており、METIの空の移動革命に向けたロードマップ[1]では、2019年から試験飛行・実証実験等を行い、2023年に地方での導入、2030年以降に都市部での導入を目標にしています。私は当初、渋滞回避という目的では地方での導入にあまり意義を感じなかったのですが、空は道路などの陸と比べて整備が不要で、地方のインフラ老朽化などといった現在進行形で生じているといった視点を高橋さんからいただき、改めて考えると非常に有意義なものであると感じました。また2011年に起きた東日本大震災では各都道府県に1台しかない計47台の災害救助用ヘリコプターがフル稼働したという話からも、災害大国である日本での空飛ぶクルマの必要性を強く感じました。

4. 問題点:

一方で、空飛ぶクルマの実現には様々な問題を包含しており、多くは技術的な部分にあります。利点として挙げた夜間での運行について、どれほど低ノイズなのかはまだ不透明である点や、駆動源であるバッテリー技術がまだ間に合っていない点などがあります。他にもモーター技術や、モーターを駆動させるインバータ技術などが不足していることが挙げられます。これらは日本が高い技術を保持しており,現在注目が集まっています。こういった問題点を受け航空機大手などは電気系メーカーとの連携の必要性を感じており、高橋さんは連携の手伝いなども行っています。技術問題以外にも、例えば離着陸時のマンションでのプライバシーの問題など、ルールがまだ曖昧で課題は山積みです.しかしながら高橋さんはこういった困難を乗り越えることにやりがいを感じているそうです。

5. 最近の動向:

2019年1月15日にMETIはボーイング社との間で、将来の航空機に必要となる技術分野で両者が協力を強化することを目的として、「日本国経済産業省とボーイング社との間の航空機の技術協力に係る合意書[2]」に署名をしました。中でも、合意書の内容として、ボーイング社に将来の航空機輸送に関する戦略的ビジョンの情報提供を求めており、意義深い提携としてメディアにて広く取り上げられました。

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6. まとめ:

高橋さんには、他にもMETIについてや、これまでの航空機メーカーの歴史などたくさんのお話をしていただきました。また我々の質問にも丁寧に時間を割いて答えてくださいました。

空を飛ぶクルマは、映画やアニメで古くから描写されていましたが、いよいよ現実になるときが近いかもしれません。

新たな分野を創出していくのは、多くの人が関わり、苦労も多いとは思いますが、我々も、何らかの形で新たな価値を創出して行きたいと強く感じました。

最後に、お忙しい中このような機会を提供してくださった高橋さんに心よりお礼申し上げます。どうもありがとうございました。

文責:宮岡 洋平 (工学院 電気電子系 修士2年 ToTAL1期生)

【注釈】

[1]経済産業省”空の移動革命に向けたロードマップ,”

http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181220007/20181220007.html

[2]経済産業省”磯﨑経済産業副大臣がボーイング社と将来の航空機の技術協力に係る合意書に署名しました,”

http://www.meti.go.jp/press/2018/01/20190115007/20190115007.html