概要
科目分類 | 社会課題の認知/Recognition of Social Issues |
科目名 | プロフェッショナルと価値創造A/C/Professionals and Value Creation A/C |
ゲストスピーカー | 田和晃一郎 株式会社Timers |
開催日時 | 2024年7月2日(火)18:00-20:00 |
開催方法 | 大岡山キャンパス南4号館 S4-201 |
本記事では、2024年7月2日に開催されたToTAL科目「プロフェッショナルと価値創造 A/C」第3回の講義について報告します。
ゲストスピーカー
2024年7月2日火曜日午後6時から行われたプロフェッショナルと価値創造第3回の講義では、株式会社Timers代表取締役の田和晃一郎さんをお招きし、講演及び学生とのディスカッションをさせていただきました。
田和さんは、2010年に株式会社博報堂に入社し、2012年に株式会社Timersを共同創業された。2019年からは同社の代表取締役を務めておられます。当日、先ずは、(株)Timersが提供するサービスの概要や理念、そして実際にTimersが現在のようなサービスを提供するに至った経緯などをお話しいただき、その後学生からの質問にお答えいただき、ディスカッションの時間をとっていただきました。
尚、株式会社Timersは、昨年度、本講座にお越しいただいたNTTドコモ・ベンチャーズの投資先の1社です。今回、田和さんに登壇いただいたのも、同社からのご紹介で、今回も同社の寳野さんもお越しいただきました。
講義の様子
株式会社Timersはビジョンに「社会の二項対立を溶かす。」を掲げ、特に子育てをしている女性を取り巻く課題を解決することにフォーカスし、子育て中の女性のキャリア支援を行なう「Famm(ファム)スクール」などを主な事業として行っています。Fammスクールでは、Webスキルやグラフィックデザイン、動画作成技術などを1ヶ月間の短期集中で学べるオンラインスクールを提供しています。受講者は無料でシッターサービスを利用することができるため、講義中は子どもの世話に煩わされずに集中することができます。修了までの期間が短く、受講者がクラス別に分けられていることもあり、途中で離脱する人はほとんどいないそうです。他のオンラインスクールやWebスキルの学習手段とは、子供のいる女性にフォーカスした体験やコミュニティづくりを通じて差別化を図っています。Fammスクールは、2023年に経済産業省が開始した「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」にも採択されています。
Timersでは、Fammスクールを終えた後の人に向けても、学んだスキルを活用して在宅ワークを行うことを希望している人向けにFammアシスタントオンライン事業を展開しています。この事業では、デジタル事務職人材を必要としている企業とFammスクールの卒業生をマッチングすることで、企業には必要とする人材を提供し、卒業生には在宅ワークの機会を提供しています。このような仕組みを作ることで、出産・育児を機に家庭に軸足を置くことにした女性女性であってもリスキリングや在宅ワークといったキャリアをシームレスに築いていくことができます。Timersは、女性にとって出産や育児がキャリアの中断になるのではなく、スキルアップしてキャリアを築いていく新たな機会にになることを目指しているとのことでした。
そんなTimersが創業後に提供したサービス領域は、「まなぶ」「はたらく」のジャンルではなく、家族の間で写真を共有するサービスだったそうです。子育て世代だけでなく、祖父母も含めてサービスを拡大していくようなアプローチで「家族の絆」を深めていける体験づくりを目標にしていたが、顧客であった育児と向き合う女性の声を聞く中で、より大きな課題を捉えるようになったそうです。そして、子育てをしている女性が諦めている課題は、子育てをはじめた後に新しいことに挑戦できる機会や環境がないことだと捉え、Webスキルを教えるオンラインスクール事業を始めたそうです。このように、自社のサービス領域に拘らずに顧客の持っている課題を深掘りしていくことでより大きな社会課題の発見と事業の機会を見つけることも可能だとのことでした。
スタートアップとは仮説検証の積み重ねであり、必要であれば柔軟に課題や事業領域をピボットしていくことも必要である、とのコメントがありました。その際には、私たちが気づいていないバイアスに捉われずに、アイデアを出して仮説検証をしていくことも重要だとのことです。Fammスクールに関しても、男性ではなく女性からの視点としても育児中にリスキリングをする時間があるのかと指摘する声は少なくなかったが、実際にサービスを始めてみると子育て中の女性の利用者からはポジティブな反応をたくさんいただけました。自分たちが見ているものには常にバイアスがかかっていることを認識すれば、今ある事業を新たな視点で見ることもできる事例だと思います。
田和さんのお話の後、出席者は小グループに分かれて「自分が最近失敗から学んだエピソード」と「社会生活をおくる特定の層が諦めてしまっていること」をそれぞれ共有し合いました。田和さんは、失敗から学ぶだけでなく、学びから行動に移せるかが違いを生むこと、そして誰かが諦めてしまっていることは新たなビジネスチャンスになり得るとのメッセージを我々に伝えてくれました。
質疑応答の時間には「どうしてアプリ事業からオンラインスクール事業へ広げることができたのか?」などの質問が上がりました。この質問に対して田和さんは、既存のアプリ事業の顧客と徹底的に向き合うことで、より大きな課題を見つけられたからこそ新しい領域へ広げることを決められたそうです。さらに、他社のスタートアップの例も挙げながら、何が上手くいくかはわからないし、仮説が正しいことの方が少ないので、できるだけたくさんの仮説検証をやってみることが大事だとのことでした。
【後記】
今回の講演で実際にスタートアップを拡大させてきた例を聞けたことで、新規事業開発に取り組むにあたって重視すべき点がいくつか見えてきたように感じました。特に、バイアスに捉われずに柔軟に事業の仮説を立て、検証を繰り返していくことは、特に重要だと思いました。Timersはそもそも写真共有アプリという現在とは全く異なる事業からスタートし、顧客の課題起点にサービス領域を広げたことで現在のように事業を広げることに成功しています。アプリからオンラインスクールというのは大胆な事業拡張であるが、既存の事業に捉われ過ぎずに仮説を立てて検証していけばこのような道も見えてくるのか、とも思いました。
また、Timersの事業は社会課題の解決にも貢献するものであり、事業として拡大させながらも社会的意義のあることを行なっているのはとても素晴らしいことだと感じました。女性の活躍を支援するのに政策だけでなく、産業界からも後押しされるのであれば持続可能な形で社会が変容していけるのではないかと思われて、Timersが掲げる「社会の二項対立を溶かす。」ことにも近づけそうです。今回、貴重な実経験を交えて講演をしていただいた田和晃一郎さんには改めて感謝申し上げます。
(文責:大野昴 物理学コースM2、ToTAL 5期生)