ToTAL科目「リーダーシップ・グループワーク基礎」対象のワークショップ「システム思考とリーダーシップ」を2026年1月25日, 2月8日に行った。

ファシリテーター福谷彰鴻氏
(福谷彰鴻氏について:国内ベンチャー経営企画や米国ヘルスケア企業マーケティング部門を経て、米国SoL(組織学習協会)でピーター・センゲのワークショップ運営をサポート。以来約10年にわたりセンゲ氏に師事しメンタリングを受ける。2018年より「学習する学校」Labを共同運営し、教育分野におけるシステム思考や学習する組織の普及に取り組んでいる。現在はクマヒラセキュリティ財団システム思考教育アドバイザー、SoLジャパン世話人として、中学・高校・大学での教員や学生向けのシステム思考導入支援を行っている。)
開催日時2026年1月25日(日)・2月8日(日) 10:00–16:00
開催場所S4-202, 南4号館2階, 大岡山キャンパス

概要

本授業では、複雑な課題を構造的に捉える「システム思考」と、それを実践に活かすための「リーダーシップ」について学んだ。私たちの社会では、原因と結果が必ずしも近接しているとは限らず、ある行動が遠く離れた場所や将来に影響を与えることが多い。そのため、直感的・短期的な意思決定だけでは問題の本質を捉えきれず、結果として「予期せぬ悪い状況」を引き起こしてしまうことがある。例えば、問題解決のための施策が別の問題を引き起こしたり、短期的な改善が長期的には悪化につながったりするケースは、社会やビジネスの現場において頻繁に見られる。このような現象の背景には、要素同士が相互に影響を与え合う「システム」が存在している。システム思考は、このような複雑な事象を「個別の事象」としてではなく、「相互に関連しあう事象」として捉えることで、問題の根本的な原因にアプローチし、本質的な解決策を導くための思考法である。

本授業では、表面的な事象の背後にあるフィードバックループ構造などの複雑な特徴に着目し、出来事のつながりをより深いレベルで理解し、望ましい結果を生み出すための視点と手法を学ぶことを目的とした。具体的には、ビールゲームのようなシミュレーション、因果ループ図を用いた課題分析・解決策提案を通じて、実際にシステムの振る舞いを体験的に理解するとともに、個人がどのように意思決定を行うべきかについて考察した。特に、リーダーシップの観点からは、単に目の前の問題に対処するのではなく、システム全体を俯瞰し、どのようにシステムに働きかければ、持続的に良い変化を生み出すかについて考察を行った。

アクティビティ1:ビールゲームの実践(1日目)

1日目は、サプライチェーンを模した「ビールゲーム」を実施した。参加者は小売業・卸業・流通業・製造業といった役割に分かれ、それぞれの立場から在庫管理と発注を行った。このゲームでは、自分の持つ限られた情報のみをもとに意思決定を行うため、全体の状況が見えない中で判断を下す難しさを体感した。

アクティビティ2:ビールゲームの振り返りと講義(1日目)

ゲーム終了後、各チームの結果を振り返ると、両チームで在庫の過不足が周期的に発生する「ブルウィップ効果」が確認された。これは、個々の意思決定が、システム全体としては非効率な結果を引き起こすことを示している。実際に、参加者の多くが、他の役割の人と連携が取れないために、全体で何が起きているかを把握することができず、意思決定を下すのが難しいと言っていた。講義では、この現象の背景としてシステムの特性が解説された。特に重要だったのは、問題は個人の判断ミスではなく、「システム構造」によって引き起こされているという点である。この視点により、問題解決の焦点を個人ではなくシステム全体に向ける必要性を理解した。また本講義では、システム思考が「学習する組織」という考え方の一部であることも学んだ。「学習する組織」は3つの柱と5つの要素スキルから構成されており、本ワークショップではその中でも「システム思考」を中心に扱いながら、「メンタルモデル」についても取り上げられた。特に「氷山モデル」を用いて、目に見える出来事の背後には、行動パターンや構造、さらには人々の前提や思い込み(メンタルモデル)が存在していることが示され、表面的な現象だけでなく、その背後にある構造を捉える重要性を学んだ。

アクティビティ3:因果ループ図の解説(2日目)

2日目は、システムの構造を可視化するツールである「因果ループ図」について学んだ。これは、システムを構成する要素同士の関係性を、矢印でつなぎながら表現するものであり、複雑な現象の構造を理解する上で重要な手法である。ループには「自己強化ループ(Reinforcing Loop:R)」と「バランスループ(Balancing Loop:B)」の主に2種類がある。自己強化ループは変化をさらに増幅するループであり、例として「売上増加→投資増加→さらなる売上増加(好循環あるいは悪循環)」といったものがあげられる。それに対してバランスループは変化を抑制し安定化させるループであり、例として「在庫増加→発注減少→在庫減少(均衡に向かう)」があげられる。このように、因果ループ図は単なる要素の集まりではなく、「つながった構造」としてシステムを捉える上で非常に役立ち、問題の本質的な原因を発見するための重要な手法である。

アクティビティ4:因果ループ図の作成(グループワーク)(2日目)

講義後、グループごとに社会的な課題を具体的なテーマとして設定し、因果ループ図を作成した。ビールゲームの現象や日常的な問題を題材に、どのような変数が関係しているのか、それらがどのように影響し合っているのかを議論しながら整理した。この過程では、「どの要素を変数として捉えるか」「どの因果関係に着目するか」によって、同じ現象でも異なる構造として表現されることが印象的であった。また、グループ内のメンバーによって考え方や視点が大きく異なることもあり、それらをすり合わせることで、より多角的な理解につながった。

アクティビティ5:発表と振り返り・ビジョンワーク(2日目)

各グループが作成したループ図を発表し、その内容について全体で議論を行った。他グループの発表を通じて、自分たちでは気づかなかった視点や構造の捉え方を学ぶことができた。最後に振り返りを行い、複雑な問題を構造的に理解するシステム思考の重要性について共有した。特に、「目に見える出来事の背後にある構造を捉えること」が、効果的な問題解決につながるという認識が深まった。さらに、本ワークショップの締めくくりとして「ビジョンワーク」を行った。参加者は約3分間目を閉じ、自分が本当に望んでいる状態や未来を、具体的にイメージした。このワークは、「学習する組織」における要素の一つである「共有ビジョン」に関連するものであり、自分自身の内面と向き合いながら、将来の方向性を明確にする貴重な機会となった。システム思考と合わせて、自身の価値観や目標を見つめ直すことで、より主体的な意思決定につながると感じた。

感想

本授業を通じて、システム思考の重要性を強く実感した。特に印象的だったのは、ビールゲームにおいて、自分自身は合理的に行動しているつもりでも、結果として理想から大きく外れてしまった点である。この経験から、問題の原因を個人の意思決定に求めるのではなく、システム全体の構造に目を向ける必要性を学んだ。また、因果ループ図を用いることで、複雑な現象を構造的に整理できる点も非常に有用であると感じた。これにより、短期的な課題解決ではなく、根本的な解決策を考えるための視点を得ることができた。さらに、リーダーシップの観点では、単に指示を出すだけでなく、システム全体を俯瞰し、適切な介入ポイントを見極める力が重要であると理解した。今後は、自身の研究活動やチームでのプロジェクトにおいても、システム思考を意識しながら意思決定を行いたいと考えている。例えば研究では、実験結果の背後にある要因を単一の変数として捉えるのではなく、複数の要因の相互作用として理解することで、より本質的な解釈が可能になると考えられる。また、チームでのプロジェクトにおいても、個々の役割をシステムの視点から捉えることで、より効率的な協働が実現できると感じた。

追記

私は今回、オブザーバー兼参加者として参加したが、ビールゲームで苦戦した後、講義を聞いて参加者のほとんどが納得している様子を目の当たりにした。また休憩時間には、参加者が積極的に質問を行い、システム思考に興味を持ち、因果ループ図を重要なツールとして認識していた。複雑な状況を整理して解決策を発見したい人、研究やチームプロジェクトでどのような意思決定をすべきか分からないでいる人などに本ワークショップを強くお勧めします!

報告者

生命理工学院生命理工学系D2、ToTAL第6期生 村尾侑大