「創作からはじまる自己表現ワークショップ」ワークショップ(アントレプレナーシップ科目対象)を2026年7月18日・25日に行った。

ファシリテーター村尾侑大(生命理工学院 D2 ToTAL 第6期生)
開催日時2026年7月18日(土) 13:00–17:00、2026年7月25日(土) 13:00–17:00
開催場所S6-309A 大岡山キャンパス

概要

私たち学生は普段、自分の考えや感情を言語化して話すことを求められる機会が多い。しかし、「何となく気になっていること」や「うまく言葉にできない感覚」は、言葉では表現することが困難で、そのために表現すること自体の試みが減ってしまうこともおきる。そこで本ワークショップでは、言葉だけでは表現しにくい、ぼんやりとした考えや感覚を、レゴ、粘土、クレパス、絵の具など様々な画材を用いて表現し、作品を介した他者との対話を通して自己理解を深めることを目指した。

第1回では、レゴ、粘土、クレパス・色鉛筆など複数の画材を実際に使いながら自由に創作して、自分の感覚を表現する体験を行い、それぞれの画材による表現の違いを体感した。第2回では、絵の具を使った創作を体験した後、自分自身で創作テーマを設定し、自分にしっくりくる画材を選んで、あるいは複数使用して創作を行った。その後、作品展示と対話を通して他者からコメントをもらい、作者自身が作品のテーマや制作過程について言語化することで、作品を起点として自分自身の考えや感覚を改めて理解する機会とした。

第1回(7/18)

Session 1:チェックイン・アイスブレイク

参加者同士の緊張をほぐす目的で、まずは自己紹介とチェックインを行った。その後、レゴを3個使って「このワークショップに参加した理由」を表現してもらった。レゴは組み立てても、並べて置くだけでもよいこととし、自由に表現してもらった。続いて、グループ対抗で「一番高いレゴタワーを作る」アイスブレイクを行った。単純なゲームではあるが、手を動かしながら考える感覚や、形のあるレゴという素材を使って創作することに慣れてもらうことを意識した。ファシリテーターとして参加者の様子を見ていると、最初は、どのように作ればよいのか戸惑っている様子も見られたが、時間が経過するにつれ、各自がアイデアを提案し、全員が楽しそうにレゴを組み立てていた。

Session 2:レゴを使った創作

次に、「好きな場所」をテーマとして、レゴを用いた創作を行った。完成した作品について一人ずつ説明し、他の参加者からコメントや質問を受けることで、自分の作品を言葉で説明するだけでなく、他者がどのように作品を捉えたのかを知ることができた。続いて、「今の自分」をテーマに再びレゴで創作を行った。創作後には、自分自身で作品を鑑賞する時間を設け、その後、作品について対話を行った。同じ人が同じレゴという素材を使っていても、テーマが変わることで作品が大きく変化していたことが興味深かった。また、作品そのものだけでなく、「なぜこの形にしたのか」「作っている途中で何を考えていたのか」といった制作プロセスについて話すことで、参加者自身の無意識の考えを振り返るきっかけにもなっていた。

Session3:粘土を使った創作

続いて、決まった形を持たない粘土を用いて創作を行った。粘土に触れたり、伸ばしたり、こねたりしながら、形を決めすぎずに自由に手を動かしてもらうことを意識した。まず「好きな形」をテーマに創作し、その後、自分がどのように形を作っていったのかというプロセスも含めて作品を説明した。さらに、「人には言わないようなもやもや」をテーマとして、普段は言葉にして誰かに伝えることのない感覚を粘土で表現した。完成後は作品を鑑賞し、他の参加者と対話を行った。普段であれば言葉にすることが困難な「もやもや」も、粘土という素材を使うことで表現できる可能性があることを実感した。

Session4:クレパス・色鉛筆を使った創作と作品鑑賞

最後に、休憩時間中に参加者が「心ひかれた」「心が動いた」と感じたものや場所を思い出し、そのときに抱いた感覚をテーマに、クレパスや色鉛筆などを使って創作を行った。休憩時間を長めにとり、暑い中ではあったが外に出て歩いてきてもよいこととして、目が留まったものを写真に撮ってきてもらった。写真そのものを見ながら描くのではなく、自分の中に残っている感覚や印象を、写真をたよりに思い出し、表現することを意識してもらった。創作後は、自分の作品を鑑賞し、創作中に考えたことをメモするとともに、作品にタイトルをつけた。その後、作品を展示し、他の参加者の作品を鑑賞して付箋でコメントを残した。さらに、4人グループで作品について対話を行い、まず作者以外の参加者が作品を見て感じたことを伝え、その後、作者がテーマや制作プロセス、最後にタイトルについて説明した。言葉では表現しづらい感情をクレパス・色鉛筆の質感・濃さなどで効果的に表現できていたと感じた。

第2回(7/25)

Session 1:アイスブレイク

まずは絵を使った創作に慣れてもらうことを目的として、「絵しりとり」を行った。3人1組で色鉛筆を使って絵しりとりを行い、制限時間内にどれだけ続けられるかを競った。参加者が楽しみながら絵を使った表現に慣れることができ、その後の創作活動を行うための準備になったと感じた。

Session 2:絵の具を使った創作

次に、絵の具という新しい素材に慣れてもらうため、前回制作した粘土作品への着色を行った。今回は対話を設けず、まずは絵の具を自由に使って楽しむことを意識した。その後、「好きな風景・景色」をテーマとして、絵の具を使った創作を行った。制作後には、一人ずつ作品について説明し、他の参加者から感想や質問を受けた。同じテーマでも、色の選び方や表現方法は参加者によって大きく異なっており、一人ひとりの感性の違いが作品に表れていることが印象的であった。

Session 3:テーマ設定

メインの創作に入る前に、「不思議に思っていること」をテーマとして、自分の中にある疑問や気になっていることについて考える時間を設けた。まず個人で考え、その後グループ内で共有することで、自分が表現したいテーマを少しずつ具体化していった。最初から明確な答えやテーマを求めるのではなく、「何となく気になっていること」から考えてもらうことを意識した。参加者が無理にきれいな言葉にまとめるのではなく、自分の中にある曖昧な感覚をそのまま扱えるように声をかけながら実施した。

Session4:好きな素材を使った創作と作品鑑賞

テーマを設定した後、それぞれが好きな素材を選び、時間をかけて作品を制作した。創作は前半と後半に分け、その間に中間の対話を設けた。中間の対話では、作者自身から作品について説明するのではなく、作品を見た他の参加者から「どのように見えるか」「どのような印象を受けたか」といったコメントをもらった。この形式によって、作者が意図していなかった作品の見え方や、自分では気づいていなかった特徴について、他者から新しい視点を得ることができた。作品制作後には、まず自分自身で作品を鑑賞し、紙に記入する時間を設けた。その後、作品について他者からコメントをもらい、作者自身が「テーマ」や「描いたプロセス」について説明した。特に、作者が最初に説明するのではなく、まず他者が作品を見て感じたことを聞くという順番を意識した。自分が「こういう意味で作った」と先に説明してしまうと、聞き手もその説明に引っ張られてしまうが、先に自由な鑑賞をしてもらうことで、作品そのものから感じた率直なコメントを知ることができていた。

感想

 私は今回、ファシリテーターとして本ワークショップの設計と進行を担当した。今回のワークショップでは、レゴ、粘土、クレパス・色鉛筆、絵の具など複数の素材を使い、手を動かしながら自分の感覚や考えを表現するワークを行った。ファシリテーターとして参加者の創作や対話を見ていく中で、自分の考えが先にあってそこから表現するのではなく、「まず手を動かして表現してみることで、自分の無意識の考えに気づく」というプロセスに大きな意味があると感じた。第1回では、まずレゴを使って「好きな場所」や「今の自分」を表現した。レゴは形があるため、最初は比較的取り組みやすい一方で、決まった形をどのように組み合わせるかを考える必要がある。実際に参加者の創作を見ていると、同じテーマでも、空間を具体的に表現する人もいれば、色や形の組み合わせによって雰囲気を表現する人もおり、表現の仕方に違いが見られ、興味深かった。作品について説明する際も、完成した形だけでなく、「なぜこのレゴを使ったのか」「なぜこの配置にしたのか」といったプロセスについて触れることで、レゴは手を動かしながら考えを整理するための素材として適していると考えた。次の粘土では、具体的な形を作る必要はなく、粘土をこねたり、伸ばしたり、つぶしたりしながら自由に表現してもらった。レゴと比べて粘土は形を自由に変えられるため、創作中の手の動きそのものが感情として表現されていると感じた。続いて、休憩時間に参加者が興味を持ったものや雰囲気をクレパスや色鉛筆で表現したワークを行ったが、具体的な風景を描く人だけでなく、色や濃淡を使って雰囲気や感情を表現する人もいた。同じテーマでも、そこから何を感じ取るか、どう表現するかは人によって大きく異なることを改めて実感した。

 第2回では、第1回で様々な素材を試した経験を踏まえ、自分でテーマを設定し、自分が使いたい素材を選んで比較的長い時間をかけて作品を創作した。ここでは、単に「上手な作品を作る」ことではなく、自分が不思議に思っていることを出発点にすることが重要であった。テーマを決める段階では、「何をテーマにしたらよいか分からない」と考え込む参加者が多くいた。その際、自由に考えてもらうことと、考えるためのきっかけを与えることのバランスが非常に難しいと感じた。創作の途中では、他の参加者が作品を鑑賞しコメントを伝える時間を設けたが、その際、作者自身が意図していなかった部分について他者からコメントが出ることがあり、それを聞いた作者が改めて作品を見直す場面があった。例えば、作者にとっては何気なく選んだ色や形であっても、他者から見ると「ここに強い印象を受けた」「この部分からこういう感じがした」と捉えられており、それを聞くと自分の感覚を客観的に見直すことができるのだと感じた。また、作者が最後に自分のテーマや制作過程を説明する流れも重要だと感じた。先に作者が「これはこういう作品です」と説明してしまうと、聞き手はその説明を前提として作品を見ることになる。一方で、まず他者のコメントを聞いた後に作者が説明することで、「自分はこういうつもりで作ったが、別の人にはこのように見えるのか」と、自分の意図と他者からの見え方を比較することができる。この違いを通して、作品そのものだけでなく、自分が何を表現しようとしていたのか、なぜそのような表現を選んだのかを振り返ることができていた。

 ファシリテーターとして特に難しかったのは、参加者の自由な表現を尊重しながら、必要な場面で適切にサポートすることであった。「自由に作ってください」という指示は表現の幅を広げる一方で、普段から絵を描いたり創作したりしない人にとっては、自由だからこそ何をしたらよいのか分からないという状態にもなり得る。実際、私も参加者なら同じ状況になっていたと感じた。そのため、今後はレゴ、粘土、絵の具など、それぞれの素材でどのような表現ができるのかについて自分自身の知識を増やし、参加者に適切なアドバイスを提案できるようになりたいと感じた。作品鑑賞の場面でも、他者の問いかけによって対話の深さが変わることを学んだ。「面白い」「きれい」といった感想だけで終わるのではなく、「どの部分を見てそう感じたのか」「なぜそのように見えたのか」と具体的に問いかけることで、鑑賞した側も自分の感覚を振り返ることができる。また、その理由を言語化することで、作者にとっても「自分の作品のどこが他者にそのように受け取られたのか」を知ることができる。このように、1つの作品について、作者と鑑賞者が自分の感覚を言語化することが、自己理解を深める上で重要だと感じた。また今回のワークショップを通して、第1回でさまざまな素材を試して表現の幅を広げ、第2回で自分自身のテーマを設定して表現を深めるという構成にも意味があると感じた。最初から自分の内面を深く掘り下げようとすると難しく感じる場合でも、まずレゴや粘土などを使って手を動かす経験をすることで、表現することへの抵抗感を下げることができる。その上で、第2回では自分でテーマと素材を選ぶことで、より主体的に自分自身について考えることができる。この設計は、松崎先生と深く議論した結果たどり着いた今回のワークショップの大きな特徴だと感じた。

 今回の経験を通して、「まず手を動かして創作してみる」「他者と対話する」「改めて内省する」というプロセスにより、自己理解を深められることを実感した。ファシリテーターとして、単に時間通りに進めるだけでなく、参加者が自分なりの表現を試し、自分自身について考える環境をつくるために柔軟に時間調節することが重要だと学んだ。自分の感覚や考えを言葉にすることが苦手な人や、普段とは違った方法で自分自身を見つめてみたい人に、ぜひおすすめしたいワークショップである。

報告者

生命理工学院生命理工学系D2、ToTAL第6期生 村尾侑大

教員追記

 リーダーシップ教育院(教育課程)では、学生がリーダーシップを発揮する機会の一つとして、ワークショップの企画、設計、実施をTA に行ってもらう仕組みを設けています(Debate Club、Empower You Program, つたえるラウンジなど)。これまでは主に、学生の企画を授業の中に位置づけて、教員が運営をサポートする形をとってきました。今回は、企画の初期段階から村尾さんと時間をかけて話し合い、テーマや構成を検討しました。様々な案の中で、二人とも「これを参加者と一緒にやってみたい」と思えたものの一つが、「創作からはじまる自己表現ワークショップ」です。

 このワークショップでは、「創造性」に焦点を置くのではなく、参加者が抱いたことのある「感じ」に合う表現を探す活動を中心にしました。記憶の中の「感じ」を思い出したり、しばらくとどまったり、様々な方法で表そうと試したりする経験を、できるだけゆっくり、自由にできるように工夫しました。

 仕事や研究のように、人々と共有された方法や枠組みの中でなされる活動においても、その人ならではの問いの持ち方や判断、表現が各所に現れ、その活動を方向づけています。そうした違いの生まれるところには、明確な意見や価値観にはまだなっていなくても、小さな違和感や関心、印象に注意を向け、それらと時間をかけつきあっていく中で、少しずつ形作られているものがあると私は考えています。すぐには「これ」と言えないような微妙な感じに注意を向け、表現しようとする経験そのものを大切にしてワークショップを組み立てたのは、そのためです。その意味で、このワークショップは、リーダーシップ教育の一つとして試してみたかった取り組みの一つでした。

 当初は、「不思議に思っていること」のような抽象的で内面的なテーマに、参加者が戸惑わないかという心配もありました。しかし、村尾さんと一緒に学生の反応を想像しながら構成を検討し、最終ワークとして実施したところ、各自が想像以上に多様な感覚や経験を持ち込み、それぞれ異なるしかたで表現していて、驚きました。また、実施の場面では、村尾さんのていねいな観察と、その場に応じた柔軟な対応力が生かされ、参加者が活動に集中できる場ができていたと思います。

 教員がワークショップを企画設計する際、学生の意見を取り入れることはできても、企画そのものを一緒に検討し、形にしていく機会はあまり多くありません。今回の共同企画は、私にとって大変貴重な経験になりました。村尾さん、また、初めての試みに参加し、率直なフィードバックをくださった参加者のみなさま、ありがとうございました。

担当教員

アントレプレナーシップ教育機構 特任教授 松崎由理