2020年12月22日開催「プロフェッショナルと価値創造 II第3回:「終末期医療から考える「老い」と「命の価値」」 (報告者:小室 ルナ,環境・社会理工学院 社会・人間科学コース 修士課程1年、OPEN参加)

ToTAL科目「プロフェッショナルと価値創造 II第3回:「終末期医療から考える「老いと「命の価値」」を2020年12月22日に行いました。

  • 科目分類/Group of Course:社会課題の認知 /Recognition of Social Issues
  • 科目名/Course: TAL.S502 プロフェッショナルと価値創造 Ⅱ / Professionals & Value Creation Ⅱ
  • プログラム名/Program:「終末期医療から考える「老い」と「命の価値」」/ “Aging” and “Value of life” from the viewpoint of Terminal Care.
  • ゲストスピーカー /Guest Speaker: 細田亮先生 くぬぎ山ファミリークリニック院長 /Dr. Toru Hosoda, The head of Kunugiyama Family Clinic.
  • 開催日時/Date & Time: 22 /Dec (Fri) 18:00-20:00

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くぬぎ山ファミリークリニック院長、細田亮先生をお招きし、社会課題の認知 / プロフェッショナルと価値創造 Ⅱ(第3回):「終末期医療から考える「老い」と「命の価値」」を2020年12月22日に行いました。ToTAL所属生、および、本学や東京大学医学部生などのOPEN参加の学生含め、25名が参加しました。コロナ鍋でもあるため、今回はオン・ラインで行いました。また、本講演はToTAL1期生である篠田泰成さんの企画プロデュースによって実現しました。

ⅰ.講演の概要:

1. 細田亮先生の紹介

細田先生は医師国家試験合格後、国立病院機構東京医療センター研修医を経て、同院の血液内科医師として勤務されていました。その後、総合内科専門医・血液専門医取得後、2015年4月より訪問診療専門のくぬぎ山ファミリークリニックを開設し、介護医療の垣根を超えた地域医療や質の高い終末期医療の実践に取り組み、同院の院長を務めていらっしゃいます。訪問診療、在宅緩和ケア、遺族ケア、医療介護連携をライフワークする傍ら、障がい者スポーツ医としての活動や、カンボジア医療奉仕活動も行われています。また、東京オリンピック・パラリンピックの招致にも貢献されました。

2. 医療について

 医療とは人間の健康の維持、回復、促進などを目的とした諸活動であり、20世紀以降の目覚ましい西洋医学の発展によって多くの病気や健康問題を解決できるようになりました。しかし、近年の超高齢化社会化によって、加齢に伴う様々な疾患や生活の質の低下、高齢者における多病などの問題が複雑化し、それら全体を考えたアプローチが必要となり、これまでの西洋医学がとってきたアプローチのみでは十分に対処しできない時代となってきました。それに伴って医療は、「急性期疾患」から「慢性疾患」へ 、「キュア」から「ケア」へ 、「平均寿命」から「健康寿命」へ、「延命」から「QOL(Quality of Life)」へ 、地域医療構想「地域で診る」、「専門医」から「かかりつけ医」へ 、入院日数減少→「在宅医療」の発展と様々なパラダイムシフトを求められています。そこで急激に注目をあつめているのが、細田先生が専門とされている「在宅医療×終末期医療」です。

3.在宅医療×終末期医療

「あなたはどこで人生の最期を迎えたいですか?」

自分の人生の最期をどこで迎えるか、考えたことが今までにあったでしょうか。細田先生が取り組まれている、在宅医療・終末期医療はまさにこの問の答えを探していくような仕事です。

まず終末期医療とは積極的治療は行わず、患者のあらゆる苦痛(トータルペイン)を取り除くことが中心の医療行為を指します。
 次に在宅医療とは、全年齢を対象に、自宅で寝たきりの方、医療機関への通院が困難なかた、自宅での療養及び、在宅末期療養を希望する方の自宅、もしくは施設等に訪問し、在宅療養のサポートや薬の処方、不調に対する臨時対応を行うことで、対象疾患も認知症や老年症候群(骨折、筋力低下etc.)、癌患者、慢性心不全、難病など様々です。細田先生曰く、在宅医療とは、あくまで患者さんとご家族がメインで、医師やケアマネージャーなどは多職種と連携しあってそれを支えていく役割だそうです。

そして細田先生が取り組まれている「在宅医療×終末期医療」はこの二つを掛け合わせたもので、医療モデルとしては緩和ケアを中心に、患者さん及びご家族、介護者のサポートを行います。一般的なガイドラインなどは存在せず、患者さんやご家族(関係性、死生観、経済面など)に合わせたオーダーメイドのサポートが求められます。それらを加味して本人らしさを尊重し、なるべく苦痛なく、なるべく家族に後悔が残らないように最期をマネージメントすることこそが「在宅医療×終末期医療」の役割です。

4. 質疑応答

 講義の後,参加者から寄せられた多くの質問にも、一つ一つ丁寧に回答していただきました。また、講演の内容に限らず、昨今のコロナウイルスで直面する近親者の死や、家族の介護についてなど、様々な質問についても丁寧にご説明いただきました.

ⅱ.感想:

 私は学部生の頃から心理学を専攻しており、将来的に医療コミュニケーションに関する研究をしたいと考えていたため、この企画に参加させていただきましたが、細田先生の「(患者さんに)振り回されて当たり前」「受け入れる器を広げることが大事」「やりがいしかないですね」などの言葉の端々から感じる患者さんひとり一人の声に真摯に向き合う姿勢に感銘を受けました。また超高齢化社会に突入した日本において、在宅医療・終末期医療の必要性やそれに伴う様々な葛藤、コミュニケーションの重要性など、多くを学ばせていただきました。 特に今回の大きなテーマでもあった「あなたはどこで人生の最期を迎えたいですか?」”Where do you want to spend the last days of your life?”.という細田先生からの問の中には、真に細田先生が伝えたいものが込められていたように感じました。私たちは多死社会の中にありながら、どこか死に対しても生に対しても無頓着になりがちです。そのような中で、細田先生のお話を伺い、「自分だったら…」「私の家族がそうなったら…」など、終末期医療を身近なものとして考える機会をいただけたことは、大変意味のあるものだったように思います。最後に細田先生が仰られていた「正しさ以上に優しさを」という言葉は、医療現場のみならず、全ての領域において当てはまる心掛けであると思います。この言葉を胸に、1人1人が思いやりを持って生きていくことができれば、より良い社会になっていくのではないかと思い、まずは私自身がこの言葉を忘れずに生きていこうと思いました。

ⅲ.最後に

 最後に、2時間という短い時間の中ではありましたが、細田先生には、現代医療や人の生死について多くのことを教えていただきました。上記にもありますが、我々のような学生が人の生死や終末期医療について考える機会はほとんどありません。しかし、今回のご講演を通して我々のような若い世代こそ考えるべき重要なテーマであると感じました。

 この場をお借りし,お忙しい中このような機会を提供してくださった細田先生、企画してくださった篠田さんに心よりお礼申し上げます。

(文責: 小室 ルナ,環境・社会理工学院 社会・人間科学コース 修士課程1年,ToTAL/Open生)