Courseリーダーシップ・グループワーク基礎 I / II(F)・修士/博士リーダーシップ・グループワーク特論(F)
ProgramStudent-designed workshop
Date2023年11月22日(水),2023年11月24日(金)
Venue事前情報共有回: S6-309,対話回: S422

 ToTAL3期生・小埜功貴(環境・社会理工学院 博士後期課程)の主催する「メンズリブ対話 in 東工大ToTAL」が11/22(水) と11/24(金)に実施されました。

 本イベントはそれぞれ「事前レクチャー回」[11/22(水)]と「対話回」[11/24(金)]に分けて行い,「事前レクチャー回」では実践としての対話回をまえに,そもそもメンズリブとは何か,日本においてどのようにメンズリブ(男性解放運動)は進展してきたのか,現代のメンズリブではどのような話し合いが展開されているのかについて男性学やメンズリブの研究をする小埜からレクチャー形式で共有し,「対話回」では実際にメンズリブで行われているような対話を学外からの参加者を交えて行いました。

 *メンズリブ(男性解放運動):
性規範としての「男らしさ」による抑圧や苦しみといった男性の「生きづらさ」に着目した思想およびグループのことを指す。1960年代のウーマンリブからの影響を受けた男性たちの問題意識は1970年代後半に提起され,1991年には「メンズリブ研究会」(大阪)の発足および活動を皮切りに全国各地でグループが結成された。

 本イベントは最初の告知をきっかけに朝日新聞による主催の小埜へのインタビュー記事が掲載され,メンズリブについてジェンダーを主に取り扱う雑誌『エトセトラ』の発売が目前にしていたことから,学外からの注目度の高いイベントを実施することができました。

 事前レクチャー回では最初に主催の小埜の自己紹介やこれまでの研究,メディア掲載などを紹介した上で主に5本のテーマ——①「日本のメンズリブ史(1970年代から2000年代まで)」②「メンズリブ研究会の機関誌を読む」③「なぜメンズリブ運動は衰退してしまったのか?」④「現代におけるメンズリブの活動」⑤「今回の『メンズリブ対話 in 東工大ToTAL』に際して」——でレクチャーを行いました。それぞれの要点は以下の通りです。


①「日本のメンズリブ史(1970年代から2000年代まで)」

 メンズリブ運動のはじまりは1978年4月に発足された「男の子育てを考える会」からだとされており,ウーマンリブからの影響を受けた彼らの問題意識は性別役割分業の是正や,<男性=抑圧[加害]者>であることの内省が中心にありました。「男の子育てを考える会」をはじめとする以上のような問題意識をもったグループたちは後に<家事・育児型男性運動>と称されるようになります。

 後の1989年6月に発足された「アジアの買売春に反対する男たちの会・大阪」では男性の抑圧性がなぜ生じてしまうのかについて考えたときに,女性が被る抑圧の問題とは別に男性にも固有な抑圧性が存在するのではないかという問題意識が生まれる。この男性の「生きづらさ」について中心に考えるようになったのが1991年4月発足の「メンズリブ研究会」をはじめとしたグループなのでありました。

「メンズリブ研究会の機関誌を読む」

 このパートでは実際にメンズリブ研究会ではどのような話し合いが行われていたのかについて,グループが発行していた機関誌から紐解いていきました。例会と呼ばれる話し合いの場が初めて実施された1991年4月14日では,以下のような話が16名の男性たちの間で行われていたみたいです。

・扶養の義務を男性から解放すべき。
・ドロップアウトしたいと思う。
・女性はよく感情が出せる。自分はヘタだ。そのせいかすぐつれあいに手がでる。
・男性同士のつながりがなかったのはなぜか。
・つれあいに女性学で学んだことを押しつけ,家庭内離婚。
・理性的に動くことしか知らなかった自分を変えたい。
・高校の時フェミニズムを学んだが,男としてしんどくなるばかり。女性と対等になるにはどうしたらよいのか。
・自分が“男らしく”ないので,まわりとあつれきをおこす。
・勉強はダメ,スポーツはダメという男の救われる道は。
・男のホンネを出せる場に。
・メンズセラピーの必要を感じる。相互カウンセリングも。

 男性たちの普段はなかなか表立って言えないようなつらさが共有される一方で,男性たちが集って「生きづらさ」を語りあうこの実践について機関誌のなかでは「参加者の中には,(今日は)歴史的な日だという人もいて」や「結論めいたことは出なかったと思いますが,男のホンネを出し合いながら,女性の意見も聞き(検証?)ながらいきたいな」と記されていました。 男性たちが集まって自身らをとりまく性規範についての話を行うのは2023年現在であっても「新しい!」と評価されがちではあるので,1991年から30年ほど経った今でもあまり進展がないというのもひとつ問題視されるべき事柄だと考えられます。

③「なぜメンズリブ運動は衰退してしまったのか?」

 1990年代には大阪で発足された「メンズリブ研究会」を皮切りに全国各地でメンズリブグループが発足されます。全国各地で開かれるメンズリブグループが一堂に会する年に一度のイベント「男のフェスティバル」では数百人規模で話し合いやワークショップの場が開かれるほどの盛況ぶりであったことも報告されています。

 ただ,2000年代へ入ってからメンズリブ運動の勢いは徐々に下火になってしまい,全国のグループのハブ的役割を担っていたメンズセンター(メンズリブ研究会などをとりまとめていた組織)も2010年には解散してしまいます。これらの運動が停滞した理由として,これまでの男性学研究では,多種多様な男性たちがこの運動に参加したことによって男性参加者の間にある問題意識が拡散し方向性の食い違いが生じてしまったという<差異の顕在化>や,彼らの活動がマスメディアや行政を通じて認知されるようになったことから逆説的にその存在価値を低下させたという<メッセージの浸透>という要因が挙げられています。

 ここで挙げられている要因の有効性を検証するため,主催の小埜によって調査されたメンズリブ研究会がどのように衰退の道を辿ったのかについて機関誌「メンズネットワーク」から読み解いた調査結果も共有しました。

*調査結果の詳細: 事前レクチャーで共有した調査結果についての詳細は,2024年1月刊行予定の『メディア研究』(日本メディア学会)104号に収録されている「メンズリブ研究会はいかにして活動の停滞を迎えたのか——機関誌『メンズネットワーク』に投稿された話し合いの場に関する批判的記述を事例に」(著・小埜功貴)に記載されています。

④「現代におけるメンズリブの活動」

 一度は衰退してしまったメンズリブ運動ですが,1990年代を中心に活動していたグループの問題意識を引き継いだ形で2010年代に発足されたグループが存在します。それが,「うちゅうリブ」(東京・オンライン/参加制限特になし)「ぼくらの非モテ研究会」(大阪/男性限定)「名古屋おやじままならんの会」(愛知/「おやじ」限定)「ごめんねギャバン」(北海道/参加制限特になし)です。主催の小埜は全てのグループに参加させて頂いた経験があることと,特にうちゅうリブには修士2年から博士2年現在まで参加させてもらっていたことから,その経験についてお話しました。また,会場にはうちゅうリブを運営する方もいらしていたことから,うちゅうリブの発足にまつわる貴重なエピソードを共有して頂きました。  現代のうちゅうリブでは一体どのような話し合いを行なっているのかについて,以下のようなトークテーマ一覧を共有し,主催の小埜が参加した回について紹介しました。

⑤「今回の『メンズリブ対話 in 東工大ToTAL』に際して」

 最後に,翌々日に控えたメンズリブ対話の実践回について共有しました。トークテーマを「マチズモについて語ろう」と設定しており,その意図として,近年は男性の「生きづらさ」についてメディア等で頻繁に取り上げられるようになったものの,このテーマを紐解く話の展開として「デートで男性が奢らないといけない」や「男性は弱音を吐けない」などといった,重要な問題ではあるものの,お決まりの内容が話されることが多いという背景を提示しました。「男らしさ」による弊害の話を参加者にとってより言語化しやすい形として設定した「マチズモ」をめぐる身の回りの話を行うことで,メンズリブの効用を体感しようという呼びかけのもとで,事前レクチャーは終了しました。

 レクチャーでは適宜Q&Aを設けていたことから,Zoomおよび会場へ来てくださった参加者からの質問に答え,今回初めて男性学やメンズリブについてふれる方や,以前から興味をもって学んできた方にとっても満足して頂ける事前レクチャー回になったと思います。

 11/24(金)の対話回では主催の小埜を含め7名が参加し,その内,東工大生4名と学外からいらした社会人3名が会場まで足を運んでくれました。話し合いのテーマを「マチズモについて語ろう」としており,事前に以下のような形でいくつかの話題となりうるキーワードを共有しました。

 実際に展開された話し合いについては内容が個人的なエピソードを中心としていたことから,詳細な記述は避けますが,主に挙がったテーマとして「娘がガニ股であることの指摘」,「座り方など姿勢の性差」,「これまでに相談したことがない/できないのは,自分が男性だからか?」,「X(旧Twitter)上のジェンダー批判の読解」,「東工大女子枠の議論をめぐる男子学生からの批判」が出ました。

 メンズリブでの話し合いは自分の想定していなかった話題が浮上し,それが自分にとって実は関係のある話であることが多く,たくさんの気づきを得られるということが頻繁にあります。今回の話し合いのなかでは電車内でしばしば見かける男性が股を広げて大きく座るという行為に着目したとき,実はその座り方よりも股を閉じて「行儀良く」座っているときのほうが力を使っていることから,こちらのほうが筋力的にはマチズモではないかという気づきを得られました。話題を提供してくれた方は「ちょっとみなさん,膝と膝の感覚を狭めてどれだけ行儀良く座っていられるかやってみましょう」と提案され,意識的に足を閉じて話を続けるのですが,私は普段のクセですぐにあきらめてしまいました・・・!!

 今回参加した7名の参加者のなかには現在東工大で学び,研究を行なっている学部生・修士学生・博士学生もいれば会社で働いてる方,ご自身でビジネスをやられている方にご参加いただき,性別による経験の違いもあれど,だからこそ 2時間がとても短く感じられるほどの充実した対話を行うことができました。最後のクロージングにて,一人の学生は「普段する話し合いは最後に何か成果物を完成させることを念頭に置いて意見を交わすことが多いけど,今回の会は『マチズモについて語ろう』というタイトルにあるように『語る』こと自体が目的にあるから,それがとても居心地よくて,普段話せないようなことも話すことができて,とても良かった」と感想を共有してくれました。

 主催者としては,今後,メンズリブの考え方や話し合いの実践を普及していくために,東工大に限らず様々な大学で実施したいと考えています。本イベント(事前レクチャー回+対話回)のような会を実施することに興味を抱いてくださる方は,お気軽に小埜までご連絡ください。

報告者:
小埜功貴
ono.k.am@m.titech.ac.kp
X: @KoKi_OnO_
researchmap: https://researchmap.jp/koki_ono